映画で初めて使われた音楽
映画音楽と言えば、現在では優れた映画作品には欠かせない要素の1つとなっています。コメディやラブロマンスなど、作品の雰囲気とよくマッチしたBGMはそれぞれの場面におけるムードを高め、見る者の感情に強く訴えかけてきます。また、主題歌がヒットするとそれが話題となって、多くの人が映画館に詰めかけるといった現象も珍しいことではありません。
ところで映画と言えばご存知の通り、発明された当初は音声が一切付いていませんでした。世界で初めて映画が上映されたのは1895年のことでしたが、この当時の映画は一般に「サイレント映画」と呼ばれています。サイレント映画は、その名の通りすべて無音の作品でした。というのも、当時は映像と音声を同時に記録する技術がなかったからです。したがって、その頃は当然ながら映画音楽も存在しませんでした。
一方、音声付きの映画のことは「トーキー映画」と呼びますが、このトーキー映画が世に登場したのは1920年代のことです。サウンドトラックと呼ばれる、フィルムの端に音声を記録することのできる装置が発明されたことによるものでした。ちなみに映画の中に流れる歌や伴奏などをサウンドトラックと呼ぶのは、これに起源を発しています。
トーキー映画は1920年代の前半から実験的にいくつかの短編作品が作られていましたが、長編作品に初めて採用されたのは1927年のことです。『ジャズ・シンガー』というアメリカ映画がそれに当たり、全編ではなく一部でしたがトーキー方式によって撮影及び上映されました。この作品は実在した歌手の生涯をモチーフにしており、作品の中には歌うシーンも収められています。したがって、ある意味ではこの作品内で使われた楽曲が、世界で初めての映画音楽であると言えます。
ただ、トーキー以前の映画が音楽とまったく無縁だったのかというと、必ずしもそうではありません。というのも、多くの映画館ではサイレント映画を上映する際、楽士を雇ってBGMを生演奏していたからです。その多くはクラシックの名曲などをそのまま用いたものですが、中にはオリジナル作品もありました。1908年に上映された『ギーズ公の暗殺』という作品では、映画そのものはサイレントながら、当時の有名作曲家であったサン・サーンスがオリジナル・スコアを作り、伴奏を付けながら上映するという興行方式が採用されました。現在の一般的な映画史では、これが史上初の映画音楽ということになっています。